就実大学の地域貢献報告書に就実公開講座で話した内容を寄稿しました。
ざっくりフューチャーセッションの事をまとめていますので、ここに掲載します。 「対話を通じて共感と互助の意識を高める」「さまざまな手法を駆使して効率よく欲しい結果を得る」、そしてその結果としての「協調アクションを誘発する」それがフューチャーセッションの本質だと考えています。 二元論(善/悪、YES/NO)で語れない現代社会の抱える問題に応える新たなリーダーシップ論・マネジメント手法として、「フューチャーセッション」を実生活の中に役立てていただくことを願って止みません。 未来を創造する会議「フューチャーセッション」 経営学部 経営学科 教授 林 俊克 【はじめに】 平成27年6月27日(土)、二元論(善/悪、YES/NO)で語れない現代社会の抱える問題に応える新たなリーダーシップ論・マネジメント手法である「フューチャーセッション」を体験学習を通じて学び、実生活に役立てるスキルを身につけていただく事を目的に公開講座を行った。 【フューチャーセッションとは】 フューチャーセッションという言葉は、まだ社会的に定着しておらず、明確な定義もなされていないのが現状である。ウィキペディアでは「フューチャーセンターとは、企業、政府、自治体などの組織が中長期的な課題の解決、オープンイノベーションによる創造を目指し、様々な関係者を幅広く集め、対話を通じて新たなアイデアや問題の解決手段を見つけ出し、相互協力の下で実践するために設けられる施設である。施設は一般に、研修スペースや学習スペース、ミーティングスペースなどで構成される。フューチャーセンターそのものは施設を指し、中で行われるセッションはフューチャーセッションと呼ばれる。」と記されている。ここでは「未来(志向)の会議」「個人個人は自分の思い通りに行動できるように、でも、全体も良い方向に大きく変わるように、合理的にかつ効率的に協調アクションを生むための方法論」と定義することとする。 【リーダーシップのイノベーション】 今まで、会議(ミーティング)と言えば、関係者が集まって相談をし、意思決定をすることであり、民主主義を標榜する集団に於いては、議決機関は常に会議の形を取り、多数で相談の上で決定するものとされてきた。しかしながら昨今は、「総論賛成なれど各論反対」に終始し、「議決できない」「議決しても、反対派(抵抗勢力)が多く、円滑に実行できない」といった状況が多発し、「欲しい結果が得られない」という悲しむべき結果を生むことが多くなっている。 そのような状況を鑑み、「個人個人は自分の思い通りに行動できるように、でも、全体も良い方向に大きく変わるように、合理的にかつ効率的に協調アクションを生む」必要が顕在化してきた。その背景には、「会議で何かを決めても結局みんなは決まったとおりにはなかなか動かないのだから」といったやや消極的な理由も含まれていると思われるが、今まさに「リーダーシップのイノベーション」が求められる時代に突入したと言っても良いと考える。 リーダーシップのイノベーションとは、従来の「リーダーが命令し、全員がそれに従って動く」といった、リーダーの存在が必要なリーダーシップから、「各自は自律的につかず離れず行動しているだけだが、結果的に協調アクションが生まれ、全体が良い方向に動く」という、所謂リーダーの存在が不要なリーダーシップに転換することを意味している。「はたしてそんな事が可能なのか?」と多くは疑念を抱くであろう。しかしそれは理論的に可能である。弱小魚の「イワシ」をイメージすれば理解が容易である。我々はイワシが一糸乱れぬ美しい群れの動きをすることを知っている。しかしまた同時に、イワシにはリーダーがいないであろうことも知っている。リーダー不在でも統率の取れた行動が可能であるという事例は、かくも身近に手本として存在している。 では、どうしてイワシはリーダー不在でも統率の取れた行動ができるのか?その秘密はコンピュータシミュレーションによって解明された。「仲間と一緒に動きたい(整列)」「仲間に近づきたい(結合)」「仲間とぶつかりたくない(分離)」という単純な3つのルールを適切な案配で多数の個体に適用すると、コンピューター上に、イワシの群れの行動が完全に再現されたのである。我々人間も「仲間と一緒に動きたい」「仲間に近づきたい」「仲間とぶつかりたくない」生き物である。イワシに出来て人間に出来ないはずはない。各個人が前述の単純な3つのルールで一斉に行動すれば、かならずやイワシのような統率の取れた行動になるのである。そして、そのような状態を合理的にかつ効率的に作り出す方法論が「フューチャーセッション」である。 【フューチャーセッションで大切なこと】 従来のリーダーシップである指導者たる地位、任務、権力、資質・能力・力量・統率力などに依存することなく、各自は自律的につかず離れず行動しているだけだが、結果的に協調アクションが生まれ、全体が良い方向に動くという、「イワシのリーダーシップ」にシフトしていくためには、大切にしなければならないことが4つある。「多様性」「対話」「未来志向」そしてその結果としての「協調アクション」である。 先行研究によって、「多様性」は効率よい合意形成にはマイナスに働くことが知られている。一方で多様性は会議のアウトプットの質に大きなバラツキを与えることも知られる。ここで、目的を僅かな改善でなくイノベーティブな変革におくと、多様性に頼ることが必要となる。 また、「対話」はフューチャーセッションの根幹である。昨今の社会現場では「論駁(ディベート)」がしばしば行われるが、これは議論を戦わせ説得力の高い論旨を採択するもので、勝者と敗者を生む。この時、敗者は素直に勝者の論理に鞍替えしないであろうし、勝者に従うことを楽しめないであろう事は想像に難くない。即ち、ディベートは議決は出来るが、その後、議決を実行する段階で必要な互助意識(共に助け合い協力し合う意識)の醸成に障害となる可能性がある。また、当然ながら二元論に落とし込めない問題に対しては無力である。「勝敗が決まらない」「二元論に落とし込めなくてもよい」という条件を満たす会議方法は今のところ「対話」しかない。 さらに「未来志向」が重要である。未来志向とは、未来に目標をおき、未来から現在を振り返ることで、進むべき道筋とマイルストーンを認識する、「未来は創るものである」という考え方であり、その対極には「未来は現在の延長である」という考え方がある。どちらが真実なのかは知るよしもないが、「未来は創るものである」とすれば行動がぶれず、協調アクションがおこりやすくなる。 そして「協調アクション」を誘発することこそがフューチャーセッションの目的である。前述した単純なイワシの3つのルールを人間社会で適用する為には、大前提として「仲間である」という意識が不可欠となる。それはつまり、全員が「ステークホルダー(利害関係者)」となることを意味し、それなくしては仲間意識は芽生えない。そのため、フューチャーセッションでは、目的をメタ(meta:高次元)認知することで誰もが自分事として関われる問題に変換する。例えば、「もっと売れるスマホを開発するにはどうすればいいのか?」という問題をメタ目的化し、「家族の絆を強める遠隔地コミニュケーションについて考える」という具合である。 【終わりに】 このように、「対話を通じて共感と互助の意識を高める」「さまざまな手法を駆使して効率よく欲しい結果を得る」、そしてその結果としての「協調アクションを誘発する」そのことがフューチャーセッションである。二元論(善/悪、YES/NO)で語れない現代社会の抱える問題に応える新たなリーダーシップ論・マネジメント手法として、「フューチャーセッション」を実生活の中に役立てていただくことを願って止まない。
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講演要旨フューチャーセッションの実践による地域活動の活性化 Activation of local activities by the practice of the Future session 林 俊克 Toshikatsu Hayashi 就実大学 Shujitsu Universit <あらまし> 地域活動の活性化は、地方の人口減少、経済縮小、産業衰退を背景に、現在の日本における喫緊課題となっている。同時に地域づくりには、中央集権型行政システムの機能不全と多様な価値観の台頭から、地域住民が真に住みやすく、安心できる地域コミュニティーの再生・構築が求められるようになってきた。このような社会ニーズに対応するため、「互助意識」「行動」「イノベーション」を誘発することで地域活動の活性化を実現できるとの仮説のもと、それらをワークショップ型のセッションを通じて効率的に誘発できる新しい会議方法であるフューチャーセッションの実践が地域活動の活性化にどのような影響を与えるかを明らかにする。その第一報として、本稿ではフューチャーセッションが参加者である地域住民にどのように受け入れられ、評価されたかを就実大学におけるフューチャーセッションを事例に報告する。 <キーワード> インストラクショナルデザイン、コミュニケーション、協調学習、グループ学習、ワークショップ、自己啓発 1. はじめに 地方の人口減少、経済縮小、産業衰退を背景に、地域活動の活性化が叫ばれているが、依然として有効な方法論は確立しておらず、各地でさまざまな試行がなされている。そのような中、今、フューチャーセッションと呼ばれる新しいワークショップ型のセッションが注目されている。 フューチャーセッションとは、そもそもは20世紀終盤に欧州において発展したフューチャーセンターと呼ばれる半官半民の活動拠点で行われていたセッションの形態を企業変革・社会変革の場として有用と考えた当時富士ゼロックスの野村恭彦氏が日本に導入しフューチャーセッションと呼称したもので、「最適解のない複雑な問題を解決するために、企業・行政・NPOなどのセクターの壁、組織内の部署の壁、専門分野の壁など、立場の違いを超えた対話により、協調アクションを生み出す場」と定義されている。 このフューチャーセッションは、通常のワークショップのシステム思考・デザイン思考・発散と収束といった要素に、対話を通じた肯定的な関係性構築の要素を加えたものであり、互助意識の醸成に有効な方法論であるため、多くの企業や団体・コミュニティーが活性化に有効な手段であるとして活用を模索しはじめている。 本稿では、「互助意識」「行動」「イノベーション」を誘発することで地域活動の活性化を実現できるとの仮説のもと、それらを効率よく実現するフューチャーセッションの実践が地域活動の活性化にどのような影響を与えるかを明らかにするという大きな研究テーマの第一歩として、フューチャーセッションが参加者である地域住民にどのように受け入れられ、評価されたかを就実大学におけるフューチャーセッションを事例に報告する。 2. 目的 就実大学におけるフューチャーセッションを事例に、フューチャーセッションが参加者である地域住民にどのように受け入れられ、評価されたかを明らかにすることを目的とした。 3. 方法 平成26年6月7日(土)、平成26年8月16日(土)、平成26年10月11日(土)、平成26年12月14日(日)、平成27年2月15日(日)、平成27年4月18日(土)、平成27年6月7日(日)に就実大学にて実施した7回のフューチャーセッションの各回20名~50名の参加者に対し、セッション終了時に「今日の気づき」と「行動宣言」をポストイットに記入してもらい、セッションが「互助意識」「行動」「イノベーション」の誘発に有効であったか否かを定性的に評価した。 また、平成27年4月18日(土)、平成27年6月7日(日)の2回のフューチャーセッションの参加者に対し、アンケート調査(4段階リッカード尺度)を実施し、「互助意識」「行動」「イノベーション」の誘発に有効であったか否かを定量的に評価した。 4. 結果 7回のセッションの定性的評価では、「人見知りが激しかったが、楽しく会議に参加出来た」「ファシリテーターの指示に従って楽しくワークショップに参加しているだけでよく、特段の準備や専門知識が不要なのが良かった」「話し下手の自分の意見を熱心に聞いてもらえて、自分は承認されていると強く感じる事が出来た」「他の参加者と対話を重ねていくうちに、自分の考えが明確になるのが良かった」「同じ事実を見ても、受取りかたや考え方は人によって全く違うということに驚かされた」「多様な意見に触れることで、今まで考えた事も無かったような気づきを得ることができた」「一緒に行動する仲間が出来た」「自分でも何か出来るかもしれないといった、小さな自信のようなものが芽生えた」等、「互助意識」「行動」「イノベーション」の誘発に有効であった事を示唆するような声が多数みられた。 また、2回のセッションの定量評価でも、フューチャーセッションの既知・未知に関わらず、「楽しさ」「役立ち感」「互助意識」「行動」「リピート意向」については100%、「イノベーション」についても93%の参加者が肯定的に評価した。 5. 結論・考察 上記の結果から、フューチャーセッションは、参加者である地域住民に対して「互助意識」「行動」「イノベーション」の誘発と言う意味で有効であると評価されることがわかった。 定性評価と定量評価を総合的に俯瞰すると、フューチャーセッションの受け入れられ方、評価のされ方は以下と考えられる。 (1)参加の敷居が低いことが、楽しさや役立ち感、行動誘発につながる (2)多様性の受容が促進され、各自の承認欲求が満たされることから、互助意識とイノベーションへの期待が生まれる (3)自主性、主体性が高まることで、行動が誘発され、イノベーションへの期待が高まる (4)気づき、発見が得られることが、イノベーションを期待させる (5)仲間意識が醸成されることで、互助意識が高まり、イノベーションの期待にもつながる 6. おわりに 本稿は、フューチャーセッションが効率的に「互助意識」「行動」「イノベーション」を誘発することで地域活動の活性化を実現できるとの仮説検証に向けた第一歩であり、「互助意識」「行動」「イノベーション」の誘発が本当に地域活動を活性化するかは、フューチャーセッションを通じて培われた人間関係やアイデアの実践が実際に地域社会の中にどのように根付き成功を納めるかまでを追跡しなければならない。 その意味で、今後もフューチャーセッションの実践を続け、データと知見の蓄積を継続する予定である。 7. 参考文献 野村恭彦「フューチャーセンターをつくろう ― 対話をイノベーションにつなげる仕組み」プレジデント社 (2012) 野村恭彦「イノベーション・ファシリテーター ― 3カ月で社会を変えるための思想と実践」プレジデント社 (2015) ボブ スティルガー「未来が見えなくなったとき、僕たちは何を語ればいいのだろう――震災後日本の「コミュニティ再生」への挑戦」英治出版 (2015) 林俊克「ええ、会議が楽しいですが、なにか?―フューチャーセッションが会議を変える!」海文堂出版 (2015) 学会の模様 |