講演要旨フューチャーセッションの実践による地域活動の活性化 Activation of local activities by the practice of the Future Session 林 俊克 Toshikatsu Hayashi 就実大学 Shujitsu Universit <あらまし> 「互助意識」「行動意識」「イノベーション意識」を高めることで地域活動の活性化を実現できるとの仮説のもと、フューチャーセッション(以下FSと略記)の実践がそれらの意識を高められるのか、そのことが地域活動の活性化につながるのかを明らかにすることを目的に、FSが参加者である地域住民にどのように受け入れられ、どのような能力や意識を高めることができたかを2016年実施のFSを事例に検討した。その結果、FSは、参加者に対して「互助意識」「行動意識」「イノベーション意識」を高め、「己を知り承認する」「行動し表現し成長する」「多様性を認める」「互助意識を持つ」「現状を理解する」「未来をデザインする」といった能力が高まったとの実感を与え、参加者の行動に変化を与え、地域活動の活性化に寄与する方向の手応えを与えていることがわかった。 <キーワード> フューチャーセッション、ワークショップ、インストラクショナルデザイン、協調学習、グループ学習、コミュニケーション、イノベーション 1. はじめに 東京一極集中を是正し地方の人口減少に歯止めをかけ日本全体の活力を上げることを目的に地方創生が叫ばれ、さまざまな試行がなされている中、フューチャーセッション(以下FSと略記)と呼ばれる新しいワークショップ型のセッションが注目されている。 FSとは、欧州において発展したフューチャーセンターと呼ばれる半官半民の活動拠点で行われていた社会問題を検討するセッションの形態を日本に導入しフューチャーセッションと呼称したもので、ワークショップでしばしば行われるシステム思考・デザイン思考・発散・収束といった要素に、対話を通じた肯定的な関係性構築の要素を加えた、互助意識の醸成や行動誘発に有効な方法論である。そのため、多くの企業や団体・コミュニティーが活性化に有効な手段であるとして活用を模索しはじめている。 本稿では、「互助意識」「行動意識」「イノベーション意識」を高めることで地域活動の活性化を実現できるとの仮説のもと、FSの実践がそれらの意識を高められるのか、そのことが地域活動の活性化につながるのかを明らかにすることを目的に、FSが参加者である地域住民にどのように受け入れられ、どのような能力や意識を高めることができたかを2016年実施のFSを事例に報告する。 2. 目的 2016年実施の6回のFSを事例に、FSが参加者である地域住民にどのように受け入れられ、どのような能力や意識を高めることができたのか、地域活動にどのような影響を与えたかをかを明らかにすることを目的とした。 3. 方法 2016年1月30日(19名)、4月9日(22名)、5月14日(15名)、6月5日(約60名)、6月12日(約30名)、6月18日(9名)の6回、FSを実施した。各回、チェックイン(自己紹介)→ストーリーテリングトリオ(3人組での意見共有)→ワールドカフェ(メンバーを入れ替えてのグループ対話によるアイデア出し)→ドット投票(自分の意見以外のアイデアへの投票によるアイデアの収束)→プロアクションカフェ(相互支援による問題解決のための体系的なメンバーを入れ替えてのグループ対話)→チェックアウト(気付きと行動宣言の共有)を行い、セッション終了時に、参加者全員に「今日の気づき」と「行動宣言」をポストイットに記入・提出してもらった。また参加者にWEBアンケートへの協力を要請し、賛同者に対してWEBアンケート調査(4段階リッカード尺度、10段階リッカード尺度)を実施した。これらのデータから、FSが「互助意識」「行動意識」「イノベーション意識」の誘発に有効であったか否かを定性的、定量的に評価するとともに、FSが参加者にどのように受け入れられ、どのような能力や意識を高めることができたかを定量的に評価した。更に後日、参加者であった会社経営者2名、団体職員1名、大学教授1名に有識者インタビューを行い、FSについての率直なコメントを求めた。 4. 結果 6回のセッションの定性的評価では、「知らない人の中でも楽しく参加出来た」「今日から即行動する」「大勢で考えるといろいろ素晴らしいアイデアが出ることに驚いた」など、「互助意識」「行動意識」「イノベーション意識」の高揚をうかがわせる記述が多数見られた。また、定量評価でも、FSを知る知らないに関わらず、「己を知り承認する」「行動し表現し成長する」「多様性を認める」「互助意識を持つ」「現状を理解する」「未来をデザインする」といった能力が高まり、「互助意識」「行動意識」「イノベーション意識」の高揚にも有効との結果を得た。有識者インタビューでも、「多様な人が混って考えることで社内だけでは気付けない視点やこれからが見えてきた」「経営者同士の勉強会が前向きで楽しく未来を共創できるおしゃべりの場になり参加者が自然に増えてきた」「塾生(小学生)全員が役割を理解し目標達成のための行動を自分自身で考えて実行出来るようになった」「共通の目標をつくり自分の行動を決め協調アクションを育てる意味で有効」との旨のコメントが寄せられた。 5. 結論・考察 上記の結果から、FSは、参加者に対して「互助意識」「行動意識」「イノベーション意識」を高める効果があり、「己を知り承認する」「行動し表現し成長する」「多様性を認める」「互助意識を持つ」「現状を理解する」「未来をデザインする」といった能力が高まったとの実感を与え、参加者はFSを機に行動を変化させ、地域活動の活性化に寄与する方向の手応えを得ていることがわかった。参加者が何故それらの意識を高め、行動を変えたのかのメカニズムについての考察は、今回のデータからだけでは十分に考察出来ないが、否定的な言葉を使わない対話によって、ディベート様の対立意識が生じないため「互助意識」が高まり、デザインされたグループ対話のプロセスによって、意外な発見や気付きが容易にもたらされることから「イノベーション意識」が高まり、自分たちの力だけで出来るアクションに落とし込むことで「行動意識」が高まったのではないかと推察する。「己を知り承認する」「行動し表現し成長する」「多様性を認める」「互助意識を持つ」「現状を理解する」「未来をデザインする」といった能力が高まることは、デザインされたグループ対話のプロセスが、適度な達成感を生み出していると推察する。 6. おわりに 本稿は、FSの実践が「互助意識」「行動意識」「イノベーション意識」を高め、地域活動の活性化につながるとの仮説検証に向けた初期段階であり、「互助意識」「行動意識」「イノベーション意識」の高揚が本当に地域活動を活性化するのか、それはどのようなメカニズムなのかを解明するには、より詳細な観察やアンケート、FSを通じて培われた人間関係やアイデアの追跡調査が必要である。そのため、今後もFSの実践を続け、データと知見の蓄積を継続する予定である。 7. 参考文献 野村恭彦「フューチャーセンターをつくろう ― 対話をイノベーションにつなげる仕組み」プレジデント社 (2012) 野村恭彦「イノベーション・ファシリテーター ― 3カ月で社会を変えるための思想と実践」プレジデント社 (2015) ボブ スティルガー「未来が見えなくなったとき、僕たちは何を語ればいいのだろう――震災後日本の「コミュニティ再生」への挑戦」英治出版 (2015) 林俊克「ええ、会議が楽しいですが、なにか?―フューチャーセッションが会議を変える!」海文堂出版 (2015) 林俊克「すぐできる! 誰でもわかる! アクティブ・ラーニング ーフューチャー・セッションでらくらく実践!」吉備人出版 (2016) フューチャーセッションによる参加型イノベーションの可能性(<特集>日本の未来の担い方)、野村 恭彦、研究技術計画 28(2), 207-218, 2014-02-24 創造(イノベーション)にかかるフューチャーセンター、フューチャーセッションの可能性に関する一考察 (故桑原隆広教授追悼号)、丸山 泰、アドミニストレーション 22(1), 128-153, 2015-11 学会の模様
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